ンドーム伝道師が、「SKYN」を使って教える「エイズを通じて”性”と”生”を考える講演会」~後編~

コンドーム伝道師が、「SKYN」を使って教える「エイズを通じて”性”と”生”を考える講演会」~後編~

目次
嘘を言わないことを心掛けている
人間の三大欲求は、本当に「食欲、睡眠欲、性欲」?
コンドームが、中学教科書の付録になる日に向けて

「コンドーム伝道師」と呼ばれる清水美春さん。保健体育の教員として、中高生に向けて「エイズを通じて”性”と”生”を考える講演会」でコンドームの使い方、知識を伝えながら、大学院でより深く性について学んでいらっしゃるそうです。後編も、とても興味深いお話をたっぷりお聞きしました。

嘘を言わないことを心掛けている

清水先生の講演会での言葉の中に、「どうやったら気持ちいいセックスになるのか、たとえ気まずくてもパートナーと一緒に考えてほしい。一緒に考え、笑い合える関係になってほしい」という言葉があります。コンドームの使い方だけではなく、気持ちいいセックスをするというところまで話すというのはかなり踏み込んだ内容だなと感じるのですが、これにはどのような意図があるのでしょうか?

icon 定時制の高校などで講演会をすると、最初の掴みが悪いと、その後2時間生徒たちは話を聞かずに寝ちゃったりします。だから、最初の掴みとして「“上手いセックスって、どんなの?」という問いかけから講演会をはじめます。そうすると、たいていの生徒たちが前のめりになって話を聞いてくれます(笑)。私が、講演会で話をするときに心掛けているのは、“嘘は言わない”こと。セックスは、コンドームをしないのが一番気持ちいいに決まっているけど、お互いのステイタスがわからない状態では、気持ちいいという欲求を抑えて、ちゃんとコンドームを使ってくれる相手を見つけようという話をします。

コンドームをしないほうが気持ちいいに決まっているというところまで話したうえで、コンドームの必要性を語ると説得力が深まりますよね。

icon コンドームを付けるのは、お互いのエチケットとして必要なことだから、コンドームをしてくれない相手と関係を持ったあとのことまで考えてほしいということを話します。講演会後のアンケートには、「お互いを大切にできるパートナーを見つけたいと思いました」「コンドームの付け方を女の私たちも知ることができてよかった」というコメントも多く寄せられます。コンドームを準備してくれない相手であっても、それはただ何も知らないだけということもあります。そういう相手だった場合でも、自分が持っている知識を教えてあげて欲しいと伝えています。

人間の三大欲求は、本当に「食欲、睡眠欲、性欲」?

今の活動の中で、青年海外協力隊としてケニア活動されたことが影響している点はありますか?

icon ケニアで2年間生活したことは、私の視点を大きく変えました。今年の4月から、大学院で「人間らしいセックスとは何か」、「文化が違ってもケニアと日本に共通するものは何か」ということを研究しています。学ぶ中で、いかに日本人の性に対しての意識が不自然なものになってきているかということを感じます。ケニアの人たちを見ていて、「セックスって生活の一部なんだな」ということに気づきました。ケニアでは、出会った人とは必ず握手をするし、その触れ合いの延長線上にセックスがあるという感じ。決まったパートナーとだけするわけではないので、それが性感染症やHIVの感染を増やす原因にはなっているのですが、一方で、セックスという関係を持つことがそんなに特別なことではないんだということがわかりました。日本人は、セックスに対してのハードルも理想も高いけど、ケニアの人たちを見ていると、実に人間的だなと感じたんです。

人間的というのは?

icon 私は、この先の性教育は、リスクマネージメントだけではなくて、まずは快楽について教えるということが必要になると思います。例えば、人間は触れ合って承認しあう。そこから、関係の構築がはじまっていくということを知っていくべきだなと。セックスで快楽を得られていないことに気づいてしまうのも人間だからこそです。パートナーとの異文化接触であるセックスを通して、お互いのぎこちない動きさえも楽しみながら、触れ合うことの心地よさを追求していけることはとても人間的だと感じます。動物は快楽という感覚すらわからないので。
そもそも、人間の三大欲求のひとつが「性欲」なのかという問いが自分の中にずっとあります。「性欲」が、人間の三大欲のひとつなのであれば、セックスレスなんて起こり得ないだろうと思うのですが。

それはものすごく興味深い見解ですね。清水先生は、「性欲」の代わりになる欲を何だと考えているんですか?

icon 私は、「食欲、睡眠欲、承認欲」、この三つが人間の三大欲だと考え、承認欲の中のひとつとして、「性欲」があると思っています。ケニアで生活して感じたことですが、握手ひとつでも、人は触れ合うことによって、その瞬間は他者に受け入れられていると感じることができます。接触によって承認されている実感のある毎日を繰り返している国民性と、それがない国民性では、やはりセックスに対する価値観も変わってきます。
食欲と睡眠欲は、なければ死んでしまいますが、性欲はなくても死ぬことはありませんけれども、承認欲は満たされていないと死んでしまいますよね。コロナ禍の今、人と会う機会が減ることで孤独になり、誰からも承認されないことで自殺者が増えているというのが何よりもそれを表しているなと。

コンドームが、中学教科書の付録になる日に向けて

承認欲。そのお話を聞いたら、人間の三大欲は「食欲、睡眠欲、承認欲」にしか思えなくなってきました。触れ合うことで承認欲を満たすというのは、今の時代何より意識されるべきことですよね。だからこそ、コンドームの大切さをもっと知ってもらいたいですね。

icon そうですね。性に対してのハードルを下げることの大切さは日々感じています。でも、中には、あまりに知識がなさ過ぎて、ハードルすらなかった生徒もいます。今だと、「咳にはマスク、射精にはコンドーム」と話すと、「そういうもんなんや」と受け止めてくれていますが、コロナ禍で衛生面に対しての意識が高まった子どもたちの中には、唾液すら気持ち悪く感じるような例も見られるので、ただでさえセックスレス傾向の高い国民性が、今後どのような影響を受けていくのかは気になるところです。
また、貞操観念が強くなりすぎると思考停止になり、予期していなかったセックスの際にすべてのハードルを一気に越えて、衝動的にハイリスクな行動に出ることがあります。そのため、自分がコンドームを使用するイメージをあらかじめ持っておくことはとても大切です。

清水先生の講演を聞いた生徒さんたちに、どのように先生のお話を活かしていってほしいと考えていますか?

icon 誰もが、自己決定の大切さと他者を理解することの難しさを知った上で、パートナーとの関係性を深めるとか、行為を楽しむというところまで話し合えるようになったらいいですよね。コンドームを使うのは大前提として、天然ゴムラテックス、ポリウレタン、イソプレンラバーの中で、どの素材が自分たちにあっているかとか、どんなタイプのものを使ったときが気持ちいいかとか、そういうことを、相手の反応を見たり、相手に聞いたりしながら二人で開拓していけるのが理想です。気持ちいいセックスをするために大切なのは、パートナーとの本音のコミュニケーションです。

清水先生が、今後取り組んでいきたいと思っていることはなんですか?

icon 今後、世界のスタンダードとされている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の内容を日本文化の中で取り入れていく必要があると思っています。その中には、人間関係、ウェルビーイングなどの項目が入っています。今、専門家が問題視しているところと学校現場で問題視している部分にはまだまだギャップがあるので、その辺を上手く融合できるようにしていきたいと思っています。
また個人としては、性教育の枠にとらわれずに、「人間らしいセックス」について探究していきたいです。そして、現在活動中の『全国1万人の高校生にコンドームを届ける びわこんどーむプロジェクト』をきっかけに、これからも楽しいアプローチ方法を考えながら、次の世代の性を取り巻く雰囲気を少しずつでも変えていきたいです。
コンドームがいずれ中学教科書の付録になる日に向けて、私にできるアクションを積み重ねていきたいと思います。

人間の三大欲についてのお話に衝撃を受けました。承認を満たすための触れあいのために、パートナーとのコミュニケーションを深めていくことはとても大切なこと。その中でコンドームが担う役割は大きいですよね。清水先生が「人間らしいセックス」についてより多くを学び、発信してくださる日が楽しみです。

(監修者:埼玉医科大学産婦人科医師 高橋幸子)
(取材・文:上原かほり)

前編はこちら

清水美春さんプロフィール

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滋賀県生まれ。大学卒業後、滋賀県立高校の保健体育科教諭として採用され、伝統的進学校、夜間定時制高校、滋賀県教育委員会事務局、滋賀県文化スポーツ局、青年海外協力隊など19年間、多岐に渡る分野で経験を重ねる。協力隊時代は、ケニアの地方病院内でHIV/AIDS対策に2年間従事し、現地40校2,000名以上の中高生にエイズ予防講座を届けた。帰国後もライフワークとして性教育・人権教育・国際理解などのテーマで中高生や教職員への講演活動をおこなう。滋賀県教育委員会 性に関する指導部会委員(2014-16年度)、思春期保健相談士。令和3年3月に退職し、現在は立命館大学大学院 先端総合学術研究科に所属。滋賀県思春期教育研究会理事。