“つけなきゃいけないもの”から“つけたくなるもの”へ。コンドームで築くパートナーシップ

“つけなきゃいけないもの”から“つけたくなるもの”へ。コンドームで築くパートナーシップ

目次
性に関する正しい情報にたどり着いてほしかった
パートナーシップや健全な関係性の築き方も「性教育」の一環
コンドームを、どうしてもつけたくなるような発信をする

現役の保健室の先生であり、SNSでは「コンドームソムリエ」としても活動をしているAiさん。“性教育”という観点だけではなく、コンドームの素材や使用感、コンドームを通じたコミュニケーションなどについても細かく発信をしている彼女が定期的に開催している「コンドーム試触会」では、不二ラテックスのコンドームも参加者の方たちに触れていただいています。「推しコン(ドーム)を見つける」「コンドーム選びを前戯に」と語るコンドームソムリエのAiさんが、SNSを通じてコンドームに関する発信をし続ける理由について詳しく話を聞きました。

性に関する正しい情報にたどり着いてほしかった

コンドームソムリエとして活動しはじめたのはいつからですか?

icon 2018年の11月に、Twitterで「コンドームソムリエ」のアカウントをスタートさせました。私は普段、保健室の先生をしているのですが、生徒から性に関する質問や相談を受けることもあります。保健室に来てくれた生徒には答えることはできますが、全生徒一人一人の性の悩みを解決できるような授業というのは、今の教科書の項目にはないんです。性に関心を持った子どもたちが正しく学べる場がないということに、ずっとモヤモヤしていて、それがコンドームソムリエのアカウントを作ったきっかけなんです。

保健室の先生に質問できる子どもばかりではないですよね。性に関して疑問を持った子どもたちは、どこで性に関する知識を身に着けるのでしょうか?

icon 学校の授業で十分に知識を得られない子どもたちは、ネットで検索をします。今の子どもたちのネットの使い方って、大人とは少し違って、わからないことはGoogle検索ではなく、TwitterやInstagramで検索するんです。

それは、偏った情報にしかたどり着けないのでは?

icon そうなんです。でも、子どもたちにとっては、検索結果でたどり着いたものが「正しい情報」になってしまうんです。そして多くの場合、正しい情報を得る機会を失ったまま大人になります。そう考えると怖くないですか? だから私はそのSNS検索の中に入り込むことにしたんです。興味本位で「コンドーム」と検索した子どもたちが、たくさんのエロ情報の中からコンドームソムリエというアカウントを見つけて、性について正しく学べる場所にたどり着いてくれたらいいなと思ったんです。

実際、今の中学生、高校生に向けた性教育の内容は、どの程度のものなのでしょうか。

icon 例えば、中学3年生の教科書の中に「コンドーム」という言葉は出てきますが、絵も写真も解説もなく、「性感染症の予防にはコンドームが有効な手段ですよ〜。以上!」という説明だけで終わります。びっくりしませんか? 「じゃあ生徒はどこでコンドームの正しい使い方を学ぶんだよ!」と、ツッコみたくなりますよね。
高校生の教科書になると、コンドームは避妊のために使うものとしても紹介されます。イラストや写真こそ載っていますが、付け方などの図解は一切ないんです。中には熱意のある先生が授業内でコンドームの付け方を見せてくれたりすることもありますが、そんな授業が受けられたらラッキーというレベル。今の中高生が自分の学校でそこまで学べるかどうかは正直、運次第です。今の日本の保健の授業はこのような状況になってしまっていることが多く、ほとんどの子どもたちはコンドームに対して十分な知識がないまま大人になってしまってるんです。

パートナーシップや健全な関係性の築き方も「性教育」の一環

確かに、わたしも学生時代にコンドームについてしっかり学んだ記憶はありません。でも、大人になっていろいろ振り返ると、それを知らずに大人になるというのはとても危険なことですよね。

icon 例えばAEDという機械(自動対外式除細動器)がありますよね。中学校や高校でも使い方の実習を授業の中に組み込んでいるところも多いですし、車の免許証を取るときに使い方を学んだ方も多いと思います。私も以前、街中でAEDを使う機会がありましたが、毎年AEDの講習を受け、機械の使い方を知っていたから、いざというときに正しく使うことができたんだと思います。コンドームも同じですよね?言ってしまえば、AEDよりはるかに使う機会があるのに、どうしてもっとちゃんと使えるようになるまで教えてあげないんだろうという思いがあります。

子どもたちに性教育をする意味をどのように感じていらっしゃいますか?

icon 「性教育」と聞くと、どうしても「セックスのHow toを教える」というイメージを持たれがちですが、国際セクシュアリティガイダンスによれば、パートナーシップの築き方やジェンダー理解など、自分だけでなく、相手も大切にできるようになるための学びも含まれているんです。でも、今の日本の性教育には、そういった項目がまだカリキュラムの中に組み込まれていないんです。そもそも教員だって学んでこなかったものを、いきなり子どもに教えることはできないですよね。だから、日本の性教育が充実した内容に整うまでには、もう少し時間がかかると思います。

まだまだこれからなんですね。時代が変わっていく中で、これからの子どもたちに伝えるべきことってなんでしょうか。

icon これからは、「自分を大切にする」というところがすごく大事になってきます。よく、「コンドームをつけてくれない男性に、どうつけてもらうか」という質問をいただくのですが、大前提として、「相手につけていただく」という力関係がそこにあるの? という疑問を毎回感じます。コンドームはつけていただくもの、ではなく、自分の防衛のため、そして相手のためにつけるものだということに、早くみんなが気づいてくれるといいなと思っています。

コンドームを、どうしてもつけたくなるような発信をする

コンドームは、もっと身近で手軽なアイテムになることが大切ということですか?

icon コンドームを自分のために選ぶ、コスメみたいに自分の好きなものを選ぶという意識に変わっていったらいいなと思っています。コンドームソムリエのアカウントを始めて、一番驚いたのは、女性からの反応が圧倒的に多かったんです。女性である私がコンドームの発信をしていることに興味を持ってもらったのも大きいと思いますが、女性たちの中に、「男性だけに任せておけない、自分たちが選んでもいいんだ。」という気持ちの変化が生まれたのではないかと感じました。

コンドームソムリエをしていて、たくさんの質問や相談が届くと思うのですが、どのような内容が多いですか?

icon TwitterではさまざまなリプライやDMをいただくのですが、コンドームを18禁アイテムだと思っている人も多いんですよね。中にはアダルトグッズだと思っている人もいるんです。コンドームは管理医療機器であり、購入時に年齢確認の必要もなければ、年齢制限もありません。「コンドームは、エロいものだ」とか「やましいものだ」というイメージを子どもに植え付けているのはむしろ大人の方なんだろうなと。「だから、若い人たちが買いづらいんだぞ!使わなくなっちゃうんだぞ!」と思いますし、大人こそアップデートが必要だなと感じています。

大人も子どもも、コンドームに対しての意識やイメージを変えていく必要があるんですね。

icon 「コンドームは、使わなきゃいけないモノ」という知識はみんななんとなく持っているはずなんです。でも使わないという選択をしてしまう人がいるのも事実。その理由は知識不足ではなく、コンドームをつけたくなる「何か」や、つける楽しさ、面白さへの気づきが足りていないだけだと思うんです。だからその部分をもっとしっかり発信したら、つけたくなるようになるんじゃないかと。教科書みたいに「つけろ!つけろ!」と言うよりもずっと、コンドームをつけようとするんじゃないかなって。なので、コンドームソムリエのアカウントは説教臭くせず、「思わず使いたくなるような」発信を心掛けています。

それは、どのような発信ですか?

icon SNSはもちろんですが、私の活動の中に「コンドーム試触会」というものがあります。

コンドーム試触会!? それはとても興味深いお話です! 次回、後編では「コンドーム試触会」やその活動に込めた思いについてお聞かせください。

icon はい! よろしくお願いします。

今回は、コンドームソムリエとして活動するきっかけや思いを中心にお話を聞きました。次回は、Aiさんが開催している「コンドーム試触会」についてのお話や、コンドームの素材、種類についてのお話を聞いていきます。

(監修者:埼玉医科大学産婦人科医師 高橋幸子)
(取材・文:上原かほり)

後編はこちら

コンドームソムリエAiさんプロフィール

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国内約120種のコンドームを識るコンドームソムリエ であり、養護教諭(保健室の先生)。「コンドーム選びを前戯に!」を掲げ、実物を触って嗅いで引っ張れるコンドーム試触会を立ち上げる。推しコン の名付け親。潤滑ゼリーも推進活動中。